認知症の相続人がいる場合の相続放棄 

1 相続とは


相続とは,相続人が,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することを言います(民法第896条)。「一切」とあるように,不動産,現金,預貯金などといった積極財産はもちろんのこと,借金などの消極財産をも承継することになります。積極財産しかない,あるいは消極財産もあるが積極財産の方が多い場合には相続する意味がありますが,消極財産しかない,あるいは積極財産よりも消極財産の方が多い場合にも相続しなければならないとなると過大な負担を強いられることになります。そのような負担から回避するための制度として,「相続放棄」という手続が設けられています。

2 相続放棄とは


相続放棄をするためには,「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に」(民法第915条第1項),相続放棄をしようとする旨を被相続人の最後の住所地を管轄する「家庭裁判所に申述」する必要があります(民法第938条)。相続放棄をすることによって,その相続に関しては最初から相続人ではなかったという効力が生じます(民法第938条)。ですから,被相続人の財産を承継したくない場合には必ず期間内に相続放棄の申述をしなければなりません。

3 相続人が認知症を患っている場合の相続放棄について


もっとも,相続人が認知症を発症している場合には,その行為が自己にとって利益があるものなのか,損失があるものなのか判断する能力(これを「意思能力」といいます。)を欠いているため,相続放棄をすることはできません。仮に,ご家族が勝手に手続をしたとしても無効なものとして扱われます。では,認知症を患っている相続人が相続放棄をするためにはどうすればいいのでしょうか。
認知症にも症状の軽重がありますのでその程度に応じた手続を選択することになりますが,ここでは意思能力を欠いていることを前提とします。この場合は,成年後見人を選任してくれるよう家庭裁判所に申し立てる必要があります。家庭裁判所が成年後見人を選任したのち,その成年後見人が相続人(以下では「成年被後見人」といいます。)の利害得失を検討して相続放棄をするか否かの判断をすることになります。

4 成年後見人と成年被後見人の利益が相反する場合


ここで注意が必要なのは,成年後見人が成年被後見人と同様に相続人になっている場合です。例えば,被相続人が父親,その相続人が母と子で,子が母の成年後見人になっている場合を想定してください。子が成年後見人として母を代理して相続放棄をすると子の相続分が増加することになります。このように一方が利益を得る反面,他方が不利益を被る関係を利益相反関係といいますが,この関係にあると,成年後見人は成年被後見人のために法律行為をすることができません。この場合に相続放棄をするためには家庭裁判所に特別代理人を選任してもらう必要があります(民法第860条,826条)。なお,成年後見人が先立って相続放棄をしている場合には,利益相反関係にはありませんので,成年後見人の判断で手続することが可能です。

5 まとめ


ここでは相続放棄に絞って説明しましたが,相続に関して言えば遺産分割協議をする場合も同様です。家庭裁判所に申立てすればすぐに成年後見人が選任されるわけではありませんし,申立ての準備だけでも時間がかかります。また,成年後見人は相続に関する業務が終わればそれで終了というわけではなく,成年被後見人の意思能力が回復するまで継続します。
ご家族に既に認知症の方がいらっしゃる,あるいは今後認知症の診断を受ける可能性がある方がいらっしゃる場合には,成年後見制度を利用する必要があるのか,誰が成年後見人になるのか,どのタイミングで申立てをするのかなど早め早めに考えておく必要があるでしょう。

下関 083-234-1436 黒崎 093-482-5536
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