非上場会社の事業継承における相続対策

1 問題の所在

 事業承継において注意しなければならないことは多岐にわたりますが、その中でも最も注意しなければならないのが「株式」の取扱いです。

 非上場企業のほとんどが非公開会社といって株式の自由な譲渡を認めていませんし、時価もはっきりとしていません。このような非上場株式ですが、あくまで株式ですから、これが多数の相続人に分散すると会社経営に支障を生じます。

 たとえば、会長であるお父さんAが1000株(100%)の株式を持っているとします。Aには長期間別居している妻B、子CないしGがいるとした場合、妻は2分の1、子らは10分の1ずつの法定相続分を有していますから、単純に考えるとBが500株、CないしGらがそれぞれ100株ずつを取得することになります。

 仮にAが社長であるCに会社と承継したいと考えていたとしても、このように株式が分散してしまうとCが会社を経営していくことは困難になります。会社法上、会社の重要な決定には株主総会決議が必要とされているのですが、普通決議ですら原則として出席株主の過半数(51%以上)の決議が必要になり、常にBの同意を得なければならなくなるからです(特別決議になればさらにDないしGらへの根回しも必要になります。)。

 

 このようなケースでは、遺産分割協議において、Cは現実的には経営にタッチしていないB及びDないしGらに対し、彼らが相続するはずの株式をCが全て相続する代わりに、当該株式の価値相当額の他の相続財産を渡すか自分のポケットマネーで支払うという話をすることになります(「代償分割」と言います。)。

 

 勿論、CとB及びDないしGの関係が良好であれば「そんなお金はいらないよ。」と言ってくれるかもしれません。しかし、実際にはそうならないことが多いのです。むしろ、B及びDないしGがCに対して高額な請求をしてくることもあるのです。

 そこでさらに問題となるのが「株式をいくらと評価するのか?」です。

 上述したとおり非上場株式には明確な時価がありません。上記例で1株が1万円だとすると、1000株で1000万円です。そうするとCは合計で900万円をB及びDないしGに支払わなければならないということになりますが、実際にはB及びDないしGが「1株3万円の価値はある。よって、2700万円支払え。」といった請求をしてくることもあるのです。

 

 なお、非上場株式の評価額をいくらにするのかというのは非常に難しい問題ですが、相続税額を算定するために使用する国が出している財産評価基本通達というものを使うが少なくありません。しかし、法律上はあくまで「時価」なので、相続人が財産評価基本通達によることに同意しなければ、最終的には公認会計士等にお願いしてDCF法等を用いて算定してもらわなければならないことになります。しかも、「誰がやっても金額が一緒になる。」というものではないので、最後の最後まで争いになります。

 

2 対策について考え方

 以上のとおり、無策で相続が発生してしまうと会社の存続に大きな支障を生じてしまいます(なお、会社法上、事後的に打つ手もいくつかありますが、事前策を講じる方が効果的です。)。

 このような事態を避けるための方法はいくつかあるのですが、その全てを詳細に説明することは避け、基本的な考え方と典型例をご紹介します。

 上述のとおり、根本的な問題は①株式が経営に関与しない相続人たちに分散してしまうこと、②株式の価値が明確でないこと、にあります。株式は会社の経営状況によって刻々と変わりますので、②をどうにかしようとするのは難しく、まずは①をどうにかできないか、ということを検討することになります。

 ここで思いつくのが⑴Aが生きているうちにCに株式を全て贈与してしまう、⑵Aが遺言を書いてCに株式を全て渡してしまう、という2つの方法が考えられます。

 一見すると話はこれで終わりそうですが、⑴の方法では贈与税が発生してきますし、⑵の方法では他の相続人からの遺留分減殺請求という金銭請求がなされることになるので、その対策が必要になってきます。いずれの方法でも、Cには金銭の支払が必要になってくるのです。

 大きな方向性としては、ⅰ)Cにこのような金銭支払いの負担自体が発生しないようにする、又はⅱ)金銭支払いの負担が生じることを前提としてその支払を可能とする財産をCに残す、若しくはこの両方ということになります。

 このⅰ)とⅱ)を実現するために様々なスキームが考えられていますが、どのようなスキームを採るのがベストなのかはケースバイケースです(たとえば、どう計算しても株式の評価が0円になるような場合であれば、単純に遺言を書いておくことで足りるでしょう。)。

 このように、事業承継では民法等の法律のみならず税金も絡んできますので、事業承継のスキーム選択の際には弁護士・税理士などの複数の専門家に相談した方がよいでしょう。

下関 083-234-1436 黒崎 093-482-5536
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