遺言が無効になる場合

「私は遺言書を書いて残しているから,相続は揉めない。大丈夫!」

 確かに,有効に遺言書を残していれば,相続における紛争発生のリスクを未然に防ぐことが期待できます。

 一方で,一見「有効そう」な遺言書であっても,法律で定められた形式に不備があったり,遺言を作成したときの遺言作成者の能力に問題があったり,第三者の手や作為が入っていた場合には,遺言書は無効となってしまうので注意が必要です。

 そこで,以下では,遺言書が無効とされてしまう代表的なケースについて解説したいと思います。

 

1 形式的な要件の不備

(1)日付がない,または不明確なもの

 自筆証書遺言において,もっとも初歩的で,ありがちなミスとしては,日付の記入漏れが挙げられます。遺言書は,一生のうち何度でも書くことができますが,複数の遺言書がある場合には,日付のもっとも新しいものが有効とされます。これは最新の遺言書こそが,故人の意思をもっとも反映しているとの考えからです。

 それゆえ,最新の遺言書はどれなのかを確定するために,日付は極めて重要な意味を持ち,日付のない遺言書は無効とされてしまいます。

 同様に,日付があいまいで確定できないもの(例えば,令和〇年吉日や令和〇年年末,といった記載のもの)も無効とされてしまいます。

(2)押印がないもの

 自筆証書遺言では,法律上,「遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならない」と定められています。したがって押印のない遺言書は法律の要件を満たさず無効とされてしまいます。

 なお,この押印は,法律上,実印によることは求められておらず,認印でも問題ないとされていますが,信頼性の観点からは実印のほうが望ましいでしょう。

(3)自筆で書かれていない自筆証書遺言

 自筆証書遺言は先述のとおり,「遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならない」と定められています。

 したがって,内容,日付,名前の署名が自筆でなされていないもの(例えば,パソコン,代筆など)は無効とされてしまいます。

 この点,最近の民法改正で,遺産目録等,一部の部分についてはパソコンでの作成が認められました。それゆえ,「自筆証書遺言のパソコンでの作成が認められたんだ!」と勘違いされている方もときどきいらっしゃいますが,あくまで,一部の目録等の作成についてのみパソコンの使用が認められただけですので,注意が必要です。

 

2 遺言作成能力等の不備

(1) 遺言書が偽造された場合

 遺言書が偽造された場合には,当然ですが,その遺言書は故人の意思をなんら反映しておらず無効といえます。

 問題は,どうやって偽造であるかを証明するのか,という点です。

 通常は筆跡鑑定により証明を試みるのが一般的です。もっとも,筆跡鑑定は多分に職人的要素が大きく,科学的,客観的にだれが見ても一目瞭然,といった結果が出るものでもありません。

 また,仮に遺言が偽造されたものであると裁判になっても(遺言無効確認訴訟),筆跡鑑定だけで有効無効が簡単に決まるものでは無いことは注意が必要です。

 実際には,筆跡鑑定及び,その遺言書の内容が不合理かどうかという点等を裁判官が総合的に検討して判断することが多いようです。

(2)遺言の内容を理解して作成する能力(遺言能力)を欠いた状態で作成された場合

 遺言書が形式的には法律の要件を満たしていても,遺言を作成した人が,例えば,老人性アルツハイマー症などの影響で,遺言の内容を理解し,遺言の結果を理解する判断能力(遺言能力)を欠いた状態で作成していた場合にはその遺言書は無効とされます。

 具体的には,遺言作成者のその当時の精神障害等の有無,程度を軸として,遺言者の年齢,心身の健康状態の推移,病気の発症時期と遺言作成の時間的関係,遺言書作成当時の言動,遺言書の内容などを裁判官が総合的に検討し,遺言能力がない状態で作成されたのかを判断します。

 注意が必要なのは,遺言者が遺言作成当時,老人性アルツハイマー症等にかかっていて,判断能力が低下していたのなら,即,無効というわけではないことです。

 仮に,病気で判断能力が一定程度低下していても,「全ての財産を息子に譲る」といった簡単な遺言なら可能でしょうし,反対に,判断能力の低下自体はさほどではないけど,遺言の内容が極めて複雑であったり,不合理である場合には,遺言者の意思ではなく,第三者の意思が介在したものとして,裁判所に無効と判断されやすくなります。

 

3 まとめ

以上でご説明してきた通り,遺言が無効とされるケースは,主なケースだけでも形式的な不備から,遺言能力の欠如まで,非常に多岐にわたります。

 これらの無効事由は,遺言書作成者がおひとりで作成した場合に特に問題となる傾向があります。

 せっかく将来の紛争を未然に防ごうと思い,遺言書を作成しても,その遺言書の不備をめぐって,相続人同士で紛争になったのでは元も子もありません。

 そのような事態を避けるためにも,遺言書について不安がある方は,一度,弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

 

下関 083-234-1436 黒崎 093-482-5536
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